耳とは
耳は、大きく外耳、中耳、内耳の3つに分類されます。聴覚としての働きはもちろん、平衡感覚をつかさどる器官(三半規管、耳石器)もあります。
音が聴こえるようになるメカニズムですが、まず外耳(耳介や鼓膜までの外耳道)で空気の振動、いわゆる音波を集めて中耳(鼓膜の内側、鼓室、耳管を含む部分)へと伝達していきます。鼓膜や耳小骨がその振動をアンプのように増幅して内耳(蝸牛、前庭、半規管を含む部分)へ、その振動を内耳で電気信号へと変換し、音を中枢(脳など)に伝えることで音は聞こえるようになります。また内耳は、平衡感覚(体の傾きや回転を感知する機能)を保つ働きもします。
耳の病気は、これら部位で何らかの異常や疾患が発生している状態のことを言います。
耳でよくみられる症状
中耳炎
中耳炎とは、中耳と呼ばれる場所で炎症が起きている状態で、中耳と鼻をつなぐ器官でもある耳管が成長途上である小児に起きやすいと言われています。この場合、鼻から耳管を通って、病原体(細菌・ウイルス)が入りやすいので(小児は耳管自体が短く、傾きが緩やか)、中耳で炎症しやすくなると言われています(成長すると耳管は長く、傾斜もつくので中耳にウイルス等が入りにくくなる)。
なお、一口に中耳炎と言いましても大きく4つのタイプ(急性中耳炎、滲出性中耳炎、慢性中耳炎、真珠腫中耳炎)に分けられます。以下、それぞれの中耳炎の説明になります。
急性中耳炎
一般的に中耳炎と呼ばれる場合、急性中耳炎を意味していることが多いです。発症の原因の多くは、かぜによる上気道感染から耳管を通じて病原体(細菌やウイルス 等)が中耳内に侵入し、それによって炎症を起こすなどし、様々な症状が現れるようになります。
具体的には耳の痛み、耳閉塞感、難聴のほか、発熱や風邪の症状(鼻水、鼻づまり 等)がみられます。症状を言葉で表現するのが困難な乳幼児では、しきりに耳を触る、声を上げて泣く、不機嫌といったことがみられるようになります。耳管が未発達の小児に発症しやすいのも特徴です。
治療に関しては、軽度であれば経過観察(3日間程度)になります。中等症以上であれば抗菌薬を使用していきます。また医師が中耳内に発生した膿を排出する必要があると判断した場合は、鼓膜切開術によって膿を取り除くようにします。
滲出性中耳炎
滲出性中耳炎とは、中耳内に液体(浸出液)が溜まっている状態です。急性中耳炎を発症した小児に起きやすいと言われていますが、高齢者でもみられるとされています。主な症状は、耳が詰まった感覚や聞こえにくいといったもので、痛みや熱などの自覚症状はないと言われています。そのため小児であれば症状を訴えることは少ないとされ、耳鼻咽喉科を受診して初めて発症に気づいたというケースも少なくありません。なお症状を訴えなかったとしても、テレビのボリュームを大きくする、名前を呼んでも返事をしないといった様子がみられるようになります。小児であれば急性中耳炎同様に大半のケースで耳の両側で発症しますが、放置が続けば言語発達遅滞を引き起こすきっかけにもなるので要注意です。
治療をする場合、経過観察をしながら様子を見て、必要と判断すれば粘液溶解薬(カルボシステイン)の内服薬の使用や耳管通気(鼻から耳に向けて空気を送気していく)が行われます。またアレルギー性鼻炎や副鼻腔炎が原因であればその治療が行われます。このような保存療法を3ヵ月行っても症状が改善しない場合は、手術療法として鼓膜切開術、鼓膜チューブの留置を行い、中耳内の浸出液を排出していきます。
慢性中耳炎
急性中耳炎や滲出性中耳炎による炎症が長く続いて慢性化してしまうと、炎症によって穿孔した鼓膜が自然に塞がっていくということが困難になって開いたままの状態となります。これを慢性中耳炎と言います。鼓膜穿孔の状態が続いたとしても痛みや発熱の症状はみられませんが、耳漏、伝音難聴、耳鳴りなどがみられ、炎症が内耳の方まで及ぶようになると、めまい、感音難聴の症状が現れるようになります。
治療の基本は保存療法で、耳管通気や耳の中の洗浄、抗菌薬の使用といったことが行われますが、根治させるためには手術療法(鼓膜形成術、鼓室形成術 等)が必要となります。
真珠腫性中耳炎
真珠腫性中耳炎とは、中耳内に発生した真珠腫(鼓膜表面の皮膚成分が中耳内に入り込んで形成された塊)に細菌感染が起きることで発症する中耳炎になります。原因としては、中耳炎による繰り返しの炎症(慢性中耳炎)を引き起こしている、先天的に真珠腫が中耳内に存在しているといったことなどが挙げられます。
発症メカニズムですが、真珠腫の細菌感染時に特殊な酵素が産生され、それが耳小骨など聴力に影響する骨を溶かすなどして、骨の破壊を進行していくようになります。主な症状は、悪臭のする膿が伴った耳漏や耳の痛みで、耳小骨が影響を受けると伝音難聴がみられるようになります。さらに骨破壊が進行するようになると、顔面神経麻痺、めまい、圧迫眼振なども起きるようになります。
治療をする場合、基本は手術療法となります。この場合、真珠腫を取り除く摘出術と破壊されてしまった耳小骨を再建する鼓室形成術を行う必要があります。
外耳炎
外耳道炎とも呼ばれ、外耳(外耳道)に炎症が発生している状態を言います。主に細菌感染による炎症が大半とされ、原因菌には黄色ブドウ球菌、緑膿菌などがあります。なお細菌以外では、真菌(カビ)が外耳道で繁殖することで発症する外耳道真菌症、免疫不全の患者様に起きるとされる悪性外耳道炎というケースもあります。
発症原因としては、耳かきを使用した耳掃除で外耳道を傷つける、中耳炎による耳漏、水泳、入浴、アトピー性皮膚炎等の皮膚疾患などが挙げられます。主な症状は、耳の痛み、搔痒感、湿疹、発赤などで、症状が悪化していれば耳だれなどもみられます。
治療の基本は保存療法です。多くは、自然に治癒することが多いと言われていますが、外耳道の入口近くの部分で細菌感染が発症している場合は、切開して膿を取り除くといったことや、抗菌薬や抗炎症薬を用いることもあります。また鼓膜に近い部分の外耳炎で発赤やかゆみの症状が強く出ている場合は、抗アレルギー薬や抗ヒスタミン薬を使用していきます。
耳垢(耳あか)
一般的には耳あかと呼ばれますが、これは耳垢腺から出るとされる分泌物と皮膚の角質層から剥がれた物が組み合わさるなどして形成されたものです。耳垢には、外耳道の保護や洗浄、鼓膜等への異物の侵入を防ぐなどの役割もあります。通常であれば、外耳道の皮膚が働くなどして自然に排出されるなどしますが、中には自浄作用が働かない、湿り気のある耳あかで自然と落ちにくいなどして、外耳道に耳垢が多量に溜まってしまい、それが耳栓をしているかのような状態になることがあります。これを耳垢塞栓と言います。
主な症状は、聞こえが悪い、耳閉感や耳の中に異物を感じるなどです。なお耳閉感に関しては、子どもにはわかりにくい症状で、10歳を過ぎたあたりから訴えるようになるとも言われています。
このような場合、耳垢を耳かきなどで取り除くことは難しく、かえって鼓膜の奥の方へ耳垢を押し込むことにもなりますので、耳鼻咽喉科にて耳垢を取るようにしてください。薬品を使用して耳垢を溶かす、あるいは特殊な器具を用いるなどして耳垢を取り除いていきます。
めまい
一口にめまいと言いましても、目がグルグルするようなめまい(回転性めまい)をはじめ、地に足がついている感じがせずにフワフワ浮いたような感覚になるめまい(浮動性めまい)のほか、立ちくらみといった症状も含まれます。
めまいの症状がみられる場合、何らかの脳疾患による一症状ということもあれば、内耳の中の平衡器である前庭や三半規管の異常によって起きるほか、貧血、自律神経失調症、低血圧などが原因となることもあります。このほか薬剤の副作用や心因性めまいの可能性もありますが、当院は耳鼻咽喉科なので、主に耳鼻咽喉疾患によるめまいの診療が中心となります。この場合、良性発作性頭位めまい症、メニエール病、前庭神経炎といった、耳鼻咽喉関連の疾患が考えられます。
良性発作性頭位めまい症
良性発作性頭位めまい症とは、頭の位置や傾きが突然変化するなどして、数十秒~数分程度の間ではありますが、回転性めまいの症状が起きている状態を言います。起床時に飛び上がるように起きる、靴紐を結び直そうと下を向く姿勢をとるなどする際に起きると言われていますが、めまい時に耳鳴りや難聴の症状がみられることはありません。
この場合、耳石器にあるとされる耳石が本来の位置になく、半規管の中に入り込んでしまうことで、めまいや眼振が起きやすくなるとされていますが、三半規管に耳石が入る原因はわかっていません。
治療に関してですが、何もしないで軽快していくのを待つ、あるいは対症療法になりますが抗めまい薬を使用するということもあります。このほか、浮遊耳石置換法(エプリー法)があります。これは半規管内の中に入り込んだ耳石を規管外に出していくとされる治療法で理学療法のひとつでもあります。
メニエール病
メニエール病とは、回転性めまいが繰り返され、その際に耳鳴り、難聴、耳が詰まっている感覚、嘔吐などの症状もみられるようになります。これらの症状は10分から数時間続くとされ、その頻度は週に数回みられることもあれば、年に数回程度というケースもあるなどそれぞれ異なります。
発症の原因は、内リンパ水腫とされ、ストレス、睡眠不足、過労などによって引き起こされると言われています。30~40代の女性患者様が多いという特徴もあります。
聴力検査や眼振検査、平衡機能検査などを行い、その結果からメニエール病と診断された場合、治療を行いますが現時点で完治させる治療法はありません。そのため、対症療法となるわけですが、患者様にみられる症状の程度によって、血流を改善させる薬、利尿薬、抗めまい薬などを使用していきます。発作が治まっている状態では、内リンパ水腫を軽減させる薬物療法(ビタミン剤、抗不安薬、漢方薬 等)や生活指導(ストレスを溜めない 等)を行っていきます。それでもめまいが繰り返されるのであれば、手術療法が選択されます。
前庭神経炎
前庭神経炎とは、何の前触れもなく、激しい回転性めまいに見舞われ、その際に悪心や嘔吐(自律神経症状)もみられるようになります(耳鳴りや難聴の症状は、ありません)。めまいの症状は数日間続くことになりますが、時間が経過するにつれて減衰していきます。一ヵ月程度で回転性めまいは解消されていきますが、その後も歩行時や運動時にふらつくことがあります。
発症の原因は、平衡感覚を司る前庭神経(上前庭神経、下前庭神経)の障害とされていて、同神経の炎症がめまいを引き起こし、その前に上気道感染(風邪)が起きるということから、はっきり確定したわけではないもののウイルス感染によるものではないかとも言われています。
治療法に関してですが、症状が強く出ている場合は、安静にするほか、薬物療法(炭酸水素ナトリウム、吐き気止め、ステロイド薬、抗不安薬 等)を行っていきます。これら症状が治まるようになればリハビリテーションを速やかに始めていきます。
耳鳴り
耳鳴(じめい)と言うこともあります。これは、体外に明らかな音源というのは確認できないものの、体内では何らかの音が鳴っている感覚がある状態を耳なりと言います。
一口に耳鳴りと言いましても、自覚的耳鳴(音源は体内になく、本人しか聞くことができない音)と他覚的耳鳴(音源が体内にあって、第三者が聞ける音)に分けられますが、耳鳴りの症状を訴える患者様の多くは前者(自覚的耳鳴)です。なお耳鳴りの症状がみられる方の9割程度の方に難聴があるとされ、その原因が特定されたことで耳鳴りが改善されたというケースもよく見受けられます。
また耳鳴りは、どのように聞こえるかということですが、その音というのは、ひとつとは限りません。具体的には、「キーン」「ジー」「ピー」「ザー」「ゴー」「ザッザッ」「ガンガン」などいろいろあるほか、高音に感じることもあれば、低音のケースもあります。医師であれば、音の種類や音の高低、(耳鳴りが)両耳か片耳かといったことで、原因疾患が特定できることもあります。
上記のような耳鳴りの症状があれば、何らかの聴覚(外耳、中耳、内耳、聴神経、中枢神経 等)の異常があると思われがちですが、ストレス等の心因性、何かしらの全身疾患によって引き起こされている可能性もあります。
なお自覚的耳鳴は、内耳(蝸牛)や聴神経に障害が起きることで発生する末梢性のケースと、らせん神経節から中枢側にかけて何らかの障害がみられることで発生する中枢性のケースに分けられます。末梢性の自覚的耳鳴では、難聴(突発性、加齢性、騒音性)、メニエール病、中耳炎、外耳道炎などの原因疾患による一症状、中枢性の自覚的耳鳴としては、高血圧や腫瘍性疾患による影響などが考えられます。
耳鳴検査や画像検査などによって、原因疾患が特定した場合は、その病気に対する治療が行われます。また加齢性難聴や原因不特定の耳鳴については、ビタミン製剤や血行改善薬による薬物療法を行い、さらに医師が必要とした場合は、抗不安薬なども使用していきます。
難聴
音が聴こえにくい状態にあって、日常生活に支障をきたしている状態を難聴と言います。この場合、外耳、中耳、内耳、蝸牛神経などに何らかの異常をきたしていることが考えられます。なお、一口に難聴と言いましても、大きく3つのタイプ(伝音難聴、感音難聴、混合性難聴)に分類されます。
伝音難聴
外耳あるいは中耳で何らかの異常が起きてしまい、内耳に音が上手く伝わらないことで引き起こされている難聴を伝音難聴と言います。音は小さいながらも聞こえているほか、骨導聴力に関しては正常とされています。この場合、自らの話し声を大きく感じることから、しゃべるにあたっては小声になります。難聴の程度は70dB(中等症)ほどと言われています。また同難聴の原因については、中耳炎(急性、滲出性、真珠腫性)、耳硬化症、外耳道狭窄(閉塞)、鼓膜穿孔などの病気がきっかけになりやすいとされていますが、外耳道に耳垢や異物が詰まるといったことで発生することもあります。
感音難聴
内耳の中でも、主に蝸牛や聴神経などの部位で障害が発生し、音が小さく聞こえるだけでなく、ゆがんで聞こえるという訴えもあります。この場合、難聴の程度に関しては人それぞれで、例えば高度難聴や補聴器を使用しても聞き取ることが困難な重度難聴になるケースもあります。気導聴力のほか、骨導聴力についても低下しているようです。
なお感音難聴は内耳で起きる内耳性感音難聴と内耳よりも奥にある聴覚に関係する神経に異常が起きることで発生する後迷路性感音難聴に分けられます。前者では、突発性難聴、騒音性難聴、メニエール病、薬物性難聴、加齢性難聴などが含まれ、後者では、聴神経腫瘍などの腫瘍性疾患、多発性硬化症などが原因疾患として考えられています。
混合性難聴
上記の伝音難聴と感音難聴の両方がみられる難聴です。耳硬化症が進行している状態になると起きやすいなど、原因疾患はいくつかあります。
治療について
伝音難聴の原因が耳垢塞栓であれば、耳垢を薬品で溶かす、あるいは特殊な器具を使用するなどして除去していきます。原因疾患が特定していれば、その治療を優先し、さらに耳の洗浄、中耳に溜まった分泌液の除去なども行っていきます。
感音難聴では、その原因が急性難聴(突発性難聴、低音障害型感音難聴)であれば、放置を続けるとさらに聴力が低下していくので、速やかな対応が必要となります。加齢性難聴は、加齢に伴って起きる難聴なので改善させることは困難です。したがって、補聴器を使用するなどしていくことで聴力を補っていきます。
なお難聴を引き起こす原因疾患が特定しているのであれば、原疾患に対する治療が優先されます。
補聴器
小型化した拡声器のことを補聴器と言います。補聴器にはマイクロフォンが搭載されていますが、これが拾った音は内蔵のアンプで増幅され、耳掛けや耳穴に装着するイヤフォンを通して、その音が出力されることで聴力を補っていくというものです。
対象となる方は、加齢性難聴の方、薬物療法や手術療法などの治療を行っても音の聞こえにくさを改善することが難しいとされる方で、補聴器の使用を希望される方になります。
希望される方には、まず補聴器の適応の有無を判定する検査(純音聴力検査などの聴覚機能検査)や語音聴力検査(言葉を聴きとれる力がどれくらいあるかを調べる)を行います。そのうえで、補聴器を使うことで聴力の改善が見込めると判断された場合に補聴器の試聴や調整をしていきます。これはフィッティングと呼ばれるもので、どのタイプの補聴器(耳掛け型、耳穴型 等)を選択するか、型取りといったことなども認定補聴器技能者立ち合いの元で行われていきます。
フィッティング終了後は、試聴用の補聴器を貸し出しいたします。その際に使い心地などを試していきます(1~2週間程度)。試聴期間終了後は、補聴の効果測定、再度の調整などを行っていき、さらに患者様に適応するとされる補聴器を検討いたします。その後は販売店でのご購入いただく流れとなります。